同窓生からのお便り

補習校が導いてくれた「⾃分らしさ」

 

ホルブルック⾹⾥奈

2016年度卒業⽣

ラトビア人の友達とピクニック。お互いの国について語り合った。

 私が幼稚部から⾼等部まで通った補習校を卒業して、やっぱり補習校に⾏ってよかったな、と初めて思ったのは⾼校3年⽣の時にラトビアに留学した時だ。⾔語習得を⽬的に国務省の運営している国際交流プログラムに参加し、2か⽉間滞在する機会を得た。ロシア語とラトビア語が共通⾔語であるラトビアであるが、実際の所はロシア語を話す⺠族とラトビア語を話す⺠族は居住地域が異なることが多い。そんな中、両⾔語を⺟国語として育った⼈、⾔ってみればロシア⼈とラトビア⼈の「ハーフ」も存在する。ラトビア政府とロシア政府の関係が悪化している現在、ロシア語もラトビア語も話せる彼らはラトビアで「ロシア」の代表者として活躍している。代表者と⾃覚しているからこそ、⾃分の⾔語と⽂化を継承したい、そして両国の関係を改善したい、という意識や責任感を持っている⼈も多い。 

 このような背景があるからこそ、⽇本⼈を⾃負する私も知らぬうちにラトビアでは「⽇本の代表」になっていた。ラトビアはヨーロッパ連合の⼀員なので⽇本とは良い関係を築いている。しかしながら、殆どのラトビア⼈は⽇本⼈を実際に⾒たことがないし、アジアに⾏ったことすらない。私はラトビアにいる間、⽇本の⽂化や政治、習慣などについてよく質問を受けたが、⽇本の代表の⼀⼈としてきちんと答えたい、と強く感じた。その時、役に⽴ったのは補習校で学んだ知識だった。⾔語、歴史、社会、お正⽉などの恒例⾏事を含めた⽂化についてしっかりと語れたのも補習校に通ったからである。⾊々な会話を通して、地元の⼈との関係が⾃然と深まり、お互いの国をより理解できるようになったのもこのような交流の機会があったお陰だ。結局は個⼈的な⼈間関係が深まれば、国同⼠の関係にまで発展していくのだ、と実感した。

 現在私はシカゴ⼤学の3年⽣で、国際政策とロシア語を専攻している。ロシアと⽇本は隣国でありながらも、北⽅領⼟を始めとする数多くの問題を抱え、お互いを警戒する関係である。しかし、軋轢が⽣じたのはここ最近で、ロシアは⻑い間親⽇国であったのだ。福井県敦賀市などを中⼼に、⽂化交流や貿易などが盛んだった時期もある。⽇露関係悪化の原因は様々だが、そのうちの⼀つは草の根の交流から成り⽴つ⼈間関係の喪失ではないか、と私は考える。また、ロシアと対⽴しているアメリカと⽇本の関係強化により発⽣した様々な国際問題も、⽇露間の信頼関係を悪化させ、更には⼈間関係の喪失につながったのではないか。実際ロシア⼈と話してみると、⽇本⼈やアメリカ⼈に好印象を持つ⼈も珍しくなく、⽂化や⾔語の違いのせいでお互いに歩み寄る機会が少ないだけなのでは、とも思える。

    ラトビア貴族の衣装を着て文化交流

 だからこそ私は今、補習校で学んできて本当に良かった、と思う。私なりに⽇本、アメリカ、ロシアという異なる三国の「架け橋」として⽇⽶露関係改善に取り組めるのは「⽇本⼈」としてのアイデンティティを忘れなかったからだ。アメリカでの⽇本語や⽇本⽂化の習得は補習校なしでは到底実現しなかった。ラトビアのロシア⼈と同様に、私は⾃分のルーツにある⾔語と⽂化を習得したからこそ「⽇本の代表」、そして三国の「架け橋」として⾃分らしく頑張っていけるのだ。

 将来、私は外交を中⼼とした国際政策と⽇⽶露関係の改善に貢献したい。夢が叶うまでの道のりは⻑いが、補習校で学んだ「⽇本⼈らしさ」を⼼に留めて⽇々頑張りたい。

 

出典:みらい通信2021年1月号

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